しばらくブログの更新が空いてしまいましたが、その間に私のカメラシステムは大きな転換期を迎えました。 長らくOM-1を愛用してきましたが、7月に「FUJIFILM X Halfを使ってみた正直な感想」を書いてからというもの、自分の中で「フィルムシミュレーション」への情熱が再燃。結果として、X-T5へとマウントを変更することになりました。

心機一転、Xマウントでの撮影を楽しんでいますが、なかでも「標準ズーム選び」にはかなり試行錯誤しました。今回は、そんな紆余曲折の末にようやく「これだ」と思える一本に出会うことができました。

ズームの利便性と、単焦点の表現力。その「最適解」への到達。

APS-Cのシステムにおいて、ズームでありながら単焦点級の描写が可能なSIGMA 17-40mm F1.8 DCはある意味で到達点と言えるレンズです。

私は普段、X-T5で「少しフィルム感を意識した描写」を好んで撮影しています。当初から感じていた「画質の良さ」以上に、明るいズームレンズとしての利便性に大きな魅力を感じます。とりわけ「どのような画角が最適かわからない、初めて訪れる場所」でのスナップにおいて、これ以上頼りになる相棒はいないと実感しています。

単焦点レンズのような情緒的表現と、未知の光景に対応する機動力。その両立について、現在の実感を交えて整理してみます。

SIGMA 17-40mm F1.8 DC|Art
SIGMA 17-40mm F1.8 DC|Art

操作感

「ここぞ」という瞬間を逃さないための、非常に理にかなった操作感です。

特筆すべきはやはりF1.8通しという仕様。初めて歩く街では、路地裏が暗かったり、背景を整理したかったりと、状況が刻々と変化します。そんな時、フレーミングを変えても明るさを気にせずシャッターが切れるのは、スナップにおいて絶大なメリットです。

インナーズーム構造のおかげで重心が安定しており、とっさの構え直しもスムーズ。AF(HLAモーター)も静かで速く、街の空気を乱さずに撮影に集中できます。 重量は約535gと、APS-C用としては決して軽くはありません。しかし、画角の予測がつかない旅先で「レンズ交換の手間」をゼロにできる恩恵は、この重さを補って余りあるものです。

また、所有欲を満たすビルドクオリティの高さも特筆すべき点です。 個人的な印象ですが、軽量化された純正の新型「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」は前型に比べて少し質感がチープになったように感じていました。それに比べると、このレンズの造りは遥かに良好です。鏡筒の剛性感はもちろん、フードに至るまで妥協がなく文句なしの仕上がり。 さらに、FUJIFILMユーザーとして満足度が高いのが「絞りリング」の搭載です。左手で絞りを操るあの感覚が、このズームレンズでも味わえる。それだけで撮影体験の質が一段階上がる気がします。

SIGMA 17-40mm F1.8 DC|Art
SIGMA 17-40mm F1.8 DC|Art
SIGMA 17-40mm F1.8 DC(右)とXF16-50mmF2.8-4の比較
SIGMA 17-40mm F1.8 DC(右)とXF16-50mmF2.8-4の比較

描写・ボケ味

描写に関しては、「シャープさは満足できるが、ボケ味にはズームっぽさがある」という印象です。 F1.8の明るさがあるため、背景をぼかして被写体を浮き立たせることは割と容易です。ただ、そのボケ質は「とろけるように滑らか」というよりは、少し芯が残る硬質な傾向があると思います。

背景の選び方によっては少しざわつき(二線ボケ傾向)を感じることもありますが、個人的にはその「整いすぎていないリアリティ」が、ストリートスナップの生々しさと相性が良いと感じています。ポートレートでドリーミーなボケを求めるというより、場の空気をシャープに切り取る用途に向いています。

X-T5 + SIGMA 17-40mm F1.8 DC|Art
27.5mm, F7.1, 1/10s, ISO200
X-T5 + SIGMA 17-40mm F1.8 DC|Art
27.5mm, F7.1, 1/10s, ISO200
X-T5 + SIGMA 17-40mm F1.8 DC|Art
39.2mm, F1.8, 1/90s, ISO125
X-T5 + SIGMA 17-40mm F1.8 DC|Art
39.2mm, F1.8, 1/90s, ISO125

携帯性

正直にお伝えすると、軽快さを最優先する散歩には向きません。 535gという重量は、手に持った瞬間にずっしりとした「金属とガラスの塊」を感じさせます。

しかし、「旅先や初めての場所」となると評価は一変します。 何mmを持っていくか迷って単焦点を2~3本鞄に詰め込むくらいなら、この一本をカメラに付けて出かける方が、結果として身軽でスマートです。 「常に持ち歩く」というよりは、「今日はどんな出会いがあるかわからないから、万全の体制で臨みたい」という日に、迷わず手に取る一本です。

機能性

未知の環境でも安心して撮影を続けられる、対応力の高さが光ります。

全域F1.8の明るさ: 夕暮れや薄暗い室内でも、ISO感度を上げすぎずにクリアな画が得られます。

信頼できるAF: AF(HLAモーター)も静かで速く、人物や不規則に動く被写体にも、静かに、かつ正確に合焦します。

近接撮影能力: 最短撮影距離28cmで、旅先の料理やテーブルフォトも席を立たずに撮影可能。

耐候性: 防塵防滴・撥水コーティングにより、急な天候の変化にも動じず撮影を続けられます。

手ブレ補正は非搭載ですが、X-T5などのIBIS(ボディ内手ブレ補正)搭載機であれば、夜のスナップでも全く問題なく運用できます。

感想

SIGMA 17-40mm F1.8 DC | Art は、「軽くて小さい」ことが正義とされる現代のスナップ装備において、あえて「確実性」と「表現力」を優先する選択肢です。

住み慣れた近所を歩くなら、軽量なパンケーキレンズの方が楽しいかもしれません。 しかし、初めて訪れる旅先や、予測不能な光景が待っているストリートでは、話は別です。 「あの時、もう少し広角なら」「もう少し寄れたら」といった後悔をすべて消し去り、ズームでありながら単焦点のような余白と情緒を描き出してくれます。

冒頭で少し触れた通り、このレンズに辿り着くまでにはかなりの遠回りをしました。 Xマウントに移行してからというもの、キットレンズの「XF16-50mmF2.8-4 R LM WR」に始まり、定番の「XF16-55mmF2.8 R LM WR(I型)」、そして期待の新型「II型」までも実際に手に取り、試してきました。

どれも素晴らしいレンズでしたが、自分の理想に対してどこかしっくり来ない部分があり、標準ズームレンズを漁り続ける日々。そんな中でようやく出会ったのが、今年発売されたこの「SIGMA 17-40mm F1.8 DC」でした。

純正の利便性も捨てがたい。けれど、F1.8通しという明るさと、手にした時の確かな剛性感、そして何よりそこから生み出される「単焦点が不要になるほどの描写力」に、ようやく私の標準レンズ探しは終止符を打つことができました。

未知の場所へ足を踏み入れる際、その「重さ」がいつしか「頼もしさ」へと変わる。 マウント変更を経て、今この一本を付けて街を歩けることに、深い充足感を覚えています。

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